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岡田敦【プロから学ぶ作品づくり~第4部:写真展用の制作活動について】

2010.10.20

●第4部:写真展用の制作活動について 

【写真展を開催するために必要なこと】

 作品がある程度たまってくると、展示などをして外にむけて発表したくなるものだ。では、肝心の作品は、はたしてどれくらいの点数があれば写真展を開催できるのか。例えば、僕が初めて東京で写真展をした新宿ニコンサロンの応募規定用紙には「写真展に必要な枚数(40点程度またはそれ以上)をご提示ください」と書かれている。また、僕が大学生活を過ごした大阪にある富士フォトサロン大阪の展覧会申込書には「展示内容が説明できる六切程度の作品30点以上を富士フイルムフォトサロンにお持ちください」と記されている。写真展といっても会場の広さや場所、目的によって様々だが、30〜40点という作品点数は、写真展の開催を考える場合、1つの目安(会場運営者にも作品内容を伝えやすい枚数)になるのだろう。

 写真展を開催する場所が決まってから、展示初日までには、やるべき仕事が想像以上にある。展示をする作品のプリントは勿論だが、マットや額装、挨拶文や略歴の制作、更にはDM(案内ハガキ)の準備や発送もしなければならない。経験をいくら積んでいても、オープニングまでに十分な制作期間をとっていても、写真展を開催する時にはいつも、無事にオープニングを迎えることが出来るのかと不安になるのはつきものだ。

【展示用作品制作について、サイズ、額装など】

 僕はいつも写真展を開催することが決まったら、プリント制作にとりかかる前に、何度も会場に足を運んでイマジネーションを膨らませるようにしている。作品によって適したサイズというものはあるものだが、やはり会場に作品を飾った時にどう見えるのかというのが一番重要である。“大きなサイズにプリントをして、展示点数を絞った方がいいのか。小さなサイズにプリントをして、作品をたくさん見てもらった方がいいのか。それとも、大きさをあえて統一せず、バラバラのサイズでプリントをした方が効果的なのか”と、会場に何度も足を運びながら考えるのだ。

 会場に何度か足を運んでイメージが出来上がってきたら、会場の図面などを参考にし、縮尺した模型などを作り、イメージを具現化していくことに取りかかる。写真は基本的には平面作品なのだが、展示の場合は、平面から飛びだした空間作りにも頭を使わなければいけない。

 例えば、2008年に木村伊兵衛写真賞を頂いた「I am」という作品の展示の際は、作品の内容が若者のポートレートだったので、被写体の存在感を大切にするため、プリントのサイズは等身大より大きめにし、額装もせず出来るだけシンプルな展示をするように心掛けた。また、2010年に発表した「ataraxia」という作品では、「I am」の展示の時とは正反対に、サイズや額装をバラバラにし、額縁も絵画用の少しゴツゴツとしたものを使用した。写真展を開催しようと決める時にはいつも30〜50点ほどの作品を用意しておくが、最終的には実際に展示をする会場の大きさや雰囲気に合わせて、点数を絞り、10点ほどしか展示しない場合もある。

【展示用作品制作について、プリントなど】

 展示作品のサイズや枚数が具体化してきたら、プリントをどのような形で仕上げるのかを考えなければいけない。銀塩プリントがいいのか、インクジェットプリントがいいのか。光沢紙がいいのか、マット紙がいいのか。プリント方法や紙質によっても作品や会場の雰囲気は当然変わってくるので、些細なことでもプリントの制作には特に気を使わなければいけない。

 「ataraxia」の写真展を開催した時は、その多くの作品をGEKKOグリーン・ラベルで制作した。GEKKOグリーン・ラベルは銀塩バライタ調をイメージした厚手(厚さ:360μm)の滑面光沢紙なので、紙としての存在感もあり、展示用作品を制作するにはとても適した紙だと感じている。

岡田敦連載第4部

(GEKKOグリーン・ラベルでのテストプリントの様子、プリント設定の詳細を忘れずに書き込んでおくことが大切だ)

岡田敦連載第4部

(最終判断は、大きな用紙にプリントアウトし、細部を注意深く見渡すようにしている)

 また、インクジェットペーパーで展示用作品を制作する場合、プリントの仕上りは自分の微妙な設定の仕方で調整することが可能なので、先ずは基準となるプリントを1枚作ってしまうと便利である。モニターのカラーマネージメントをきちんとしていれば、プリントの仕上りはだいたい想像がつくものだが、やはり光沢の度合いによってもプリントのイメージは微妙に変わってくるので、統一感のあるプリントを作る為には、先ずはテストプリントを繰り返し、用紙の特徴を確かめながら基準となるプリントを1枚作っておくことが必要だ。

【展示の際に気をつけている点、作品の配置など】

 写真展のオープニングまでには、会場に何度も足を運びイメージを膨らましておくものだが、図面や模型をいくら作っていても、実際に搬入日に会場に作品を飾ってみると、イメージ通りにいかないことが意外と多い。特に、写真展の経験が少ない人は、自宅で見ていた作品を実際に展示会場に飾ってみると、想像していたよりも小さく見えてしまうことに気づき、戸惑うこともあるだろう。天井の高い広々とした空間に作品を置いてみると、大きくプリントしたはずの作品でも、イメージしていたよりも小さく見えてしまうことはよくあることだ。

 そんな時は、例え綿密な計画を立てていても、勇気を持ってその場で作品を並べ替えながらプランを練り直す必要がある。搬入までに最大限の準備をしておくことは当然だが、現場でどのような状況になっても対応できるよう、きちんと心構えをしておくことも必要である。僕は展示の搬入日には、いつも時間にゆとりを持って会場に向かうようにしている。そして、場合によっては(展示サイズを統一していない時は特に)1〜2点多く作品をつくっておき、どのような状況にも対応できるよう準備している。

 写真展は、開催中は勿論だが、準備の段階、搬入の段階でも、ライブ的な感覚がとても強い。様々な状況に応じ、十分な対応が出来るよう余裕を持っていないと、決められた時間内に搬入が終わらず、ライティングまで手がまわらないという状況になってしまう。写真展をする際に気をつけなければいけない点は、オープニングまでに十分な準備期間をとり、綿密なプランを立て、状況に応じてどのような対応も出来るよう柔軟性を持つことだと考えている。

●第5部:インクジェット用紙について(11月中旬更新予定)

【インクジェット用紙の魅力】
【用紙選定基準、どのように用紙を使い分けているのか】
【作品にあわせた用紙選びのポイント】
【ピクトリコを使い続ける理由】