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岡田敦【プロから学ぶ作品づくり〜第3部:プリント作業について-2】

2010.09.21

●第3部:プリント作業について 2

【ふだん使用している用紙とその選定理由】

僕がインクジェット用紙で作品をつくる時は、必ず5種類ぐらいの用紙を使ってテストプリントをしてきた。同じデータからプリントしても、用紙によって全く作品の仕上りが違ってくるからだ。光沢紙とマット紙の違いは見て明らかだが、同じ光沢紙(あるいはマット紙)といっても、メーカーやグレードによって色や質感が変わってくる。青みがかった白、マゼンタぎみの白、薄いクリーム色のような白。同じ“白”といっても多種多様な白があり、下地の色によって当然作品の仕上りも変わってくる。一般的には白色度の高い用紙がよいとされているが、シリアスな作品をつくる時は、意図的に青みがかった用紙を選び、優しい印象の作品をつくりたい時は、あえて暖色系の用紙を選ぶのもおもしろい。慣れないうちは時間もコストもかかってしまうが、やはり初めは、いくつかの用紙で実際にテストプリントを繰り返し、その経験の中から自分の作品や作風にあった用紙を見つけてみるのがよい。

僕がふだんよく使っている用紙は、ピクトリコの“ピクトリコプロ・セミグロスペーパー”と、“GEKKOグリーン・ラベル”だ。ピクトリコの半光沢用紙は癖もなく、使いやすいので、“ベルベッティ・ペーパー”が第一線にラインナップされていた頃から、僕はずっと愛用してきた。用紙選びに迷った時は、先ずはピクトリコの半光沢用紙、どんな作品とも相性がよく、安定したプリント結果が得られるので、僕の中ではスタンダードな用紙として位置づけされている。

“GEKKOグリーン・ラベル”は、展示作品をつくる時などに最近よく使用している。2009年に新宿のBEAMS(B GALLERY)で写真展をおこなった際も、実際に“グリーン・ラベル”を使って、ほぼ全ての作品をプリントした。ふだん常用する紙としては“セミグロスペーパー”ほど扱いやすい紙ではないが、バライタ調の風格のある仕上りは、厚手で高級感もあり、展示作品をつくる時には最適だ。またGEKKOシリーズは、ピクトリコのWebサイトではモノクロ写真用紙としてラインナップされているようだが、僕はカラー写真の印刷用紙として愛用している。インクジェット用紙と一言でいっても、質感、紙厚、白色度、光沢感、インクとの相性など、そこには一言ではいい表すことのできない奥深さがある。

【プリント作業について】

 “正しいプリントの仕方”というものを定義するのは難しい。モニターに映しだされた写真の色と、紙にプリントされた写真の色を完璧にあわせることはできないからだ。また、同じプリンターを使用していても、モニターの環境、作業場所の光源、用紙の種類、色の見え方といった個人差によっても結果が違ってくる。“正しいプリントの仕方”と一概にいっても、そこには統一されたルールがあるわけではないので、皆、正しいプリントの仕方が分からず、悪戦苦闘しているのではないだろうか。実際、写真家やカメラマンと呼ばれる人たちでも、プリントの仕方は様々であり、それぞれの経験から導いた独自の方法でプリントをしているように思う。

 とは言っても、キャリブレーションがきちんとされているモニターで作ったデータであれば、現行のプリンターで印刷をする限り、それほどおかしな仕上りになることはない。モニターで見ている色にプリントを近づけたいのであれば、先ずはモニターをキャリブレーションすることが必要であろう。プリント時の細かな設定については、それぞれのプリンター、もしくはインクジェット用紙メーカーがWebサイトなどで推奨している印刷方法を参考にテストプリントをしてみるのがよい。また、各用紙メーカーが提供しているプリンタープロファイルは、それぞれのメーカーのWebサイトからダウンロードできるので、純正紙以外を使う時は一度試してみるのがよい。

*ピクトリコ プロファイルダウンロードページ

【プリントをイメージ通りに仕上げるには】

プリントをイメージ通りに仕上げるには、モニターをキャリブレーションすることや、メーカーが推奨する設定方法で試してみるのがよいと先に記述したが、やはりそれぞれプリントしている環境が違うので、やはりプリント上達への近道は、何度もテストプリントを繰り返し、経験を積んでゆくことが一番である。テストプリントをした用紙には、設定方法や細かなデータなどをきちんと書き込んでおき、それを1冊のファイルにまとめておけば教科書になる。

【プリント物をどのように保存、展示しているのか】

10年ほど前に発売された染料インクジェットプリンターでプリントをしていた頃は、プリントしてもすぐに色が変色してしまっていたので、プリントの保存にはずいぶん気を使った。湿度が高い所、直射日光があたる所、温度変化が激しい所は、保存場所として当然避けなければならばなかった。最近の染料インクジェットプリンターは、インクの開発も進み、保存性が飛躍的に向上したと聞くが、それでもやはりプリントの扱いにはじゅうぶん気を使わなければいけないだろう。

 僕は現在、顔料インクジェットプリンターを使用しているので、かつての染料インクジェットプリンターほど気を使わなくてもよくなった。しかしたとえ顔料だといっても、湿度が高い所、直射日光があたる所での保存はやはり避けている。たとえどれだけインクや用紙の開発が進んでも、紙は自然と劣化するものであり、直射日光のあたる場所に何ヶ月も作品を飾っておけば、紙は当然傷んでくる。

 プリンターメーカーが公表している、アルバム保存(暗所保存性)や耐光性の表示年数には、“一般家庭の暗所に23℃で保存した場合”、“一般家庭などの屋内に掲示したサンプルに、窓ガラス越しの太陽光が主に壁や床その他の物質で反射された後に当たった場合”などという但し書きが必ず書かれている。また、表示されている年数そのものが、紙の変色や、紙そのものの耐久性を示しているわけではないので、50年、200年といった数字をうのみにして、プリントの扱いが雑になってしまってはいけない。やはり作品としてプリントを長く残しておきたいのであれば、メーカーの注意書きをよく読み、光や外気を避け、低温・低湿の場所にプリントを保存しておくことが作品を長持ちさせるためには必要であろう。
 
 僕も展示以外の時には、作品を専用のケースに入れ、光や外気に触れないようにしている。そして展示をする際には、極力直射日光があたらない場所(あるいは壁面)で展示をするようにしている。作品が展示期間中に変色してしまっては身もふたもない。インクジェット用紙を使って作品を展示する場合には、自分が作ったプリントがどれくらいの期間、クオリティを保っていることができるのかを把握しておかなければいけない。

●第4部:写真展用の制作活動について

【作品展を開催するために必要なこと】
【展示用作品制作について、サイズ選び、プリント、仕上げ、額装、加工など】
【展示の際に気をつけている点、作品の配置、ライティングなど】

●第5部:インクジェット用紙について (11月更新予定)

【インクジェット用紙の魅力】
【用紙選定基準、どのように用紙を使い分けているのか】
【作品にあわせた用紙選びのポイント】
【ピクトリコを使い続ける理由】