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岡田敦【プロから学ぶ作品づくり~第5部:インクジェット用紙について】

2010.11.22

●第5部【最終回】:インクジェット用紙について

【インクジェット用紙の魅力】 

 かつて、暗室にこもって自分で写真をプリントするという作業は、一般の人にとってはかなり敷居の高いことであった。しかし、技術の発達により精度の高いインクジェットプリンターが開発され、品質のよい用紙が誰でも手軽に購入できるようになったことで、形態は以前と変わったが、“写真を自分でプリントする”という行為が、多くの人にとってとても身近なものとなった。 

 更に、暗室作業に比べ、写真をプリントする際に必要な最低限の技術や知識は少なくなり、逆に、選べる用紙の種類やサイズは豊富になった。今では“光沢紙”と一言でいっても、各メーカーから様々な種類の光沢紙が開発・販売され、用紙を選ぶのにも一苦労するほどになった。最近では、インクジェットプリンターだからこそ印刷可能な質の高い専用のアート紙や和紙も登場し、正に作り手が自分の作品にあった用紙を幅広く自由に選択できるようになったと言っても過言ではないだろう。

 また作品を制作するサポート面においても、例え自分で大判プリンターを所有していなくても、ラボに依頼すれば1メートルを優に超える巨大なプリントを制作できるなど、新しい環境も整ってきている。用紙と品質にこだわった、ピクトリコの「プリント工房PRO」も、その代表的な1つであろう。インクジェット用紙の最大の魅力とは、そうした選択肢の豊富さであり、発想次第では、これまでの銀塩写真では不可能であった新たな表現が可能になった点にあると感じている。
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【どのように用紙を使い分けているのか、用紙選びのポイント】

 選択できる用紙の種類が増えた分、用紙選びに頭を悩ますことが多くなった。光沢紙がいいのか、マット紙がいいのか、それともアート紙や和紙がいいのか。芸術に答えがないように、用紙選びにも正しい答えは存在しないが、用紙選びで最も大切なことは、作品にあった用紙選びをすること、そして、目的にあった用紙選びをすることだと僕は考えている。

 作品にあった用紙選びとは、自分の作品の魅力を最大限に引き出してくれる用紙を見極めることであり、その為には、先ずは自分の作品を自分自身でよく知ることが必要である。自分の作品には光沢紙があっているのか、マット紙があっているのか。光沢紙があっているのであれば、どの程度の光沢が必要なのか。作品を知ることは自分自身を知ることであり、つまり、自分が作品でなにを表現したいのか、なにを表現しようとしているのかを改めて突き詰めていくことである。そうすれば、おのずと用紙の選択の幅は狭まってゆき、自分の作品に必要な最も適切な用紙が見つかるはずだ。いくつかの用紙でテストプリントをすることは必要になってくるが、そうしたコストや手間がかかる作業は、もの作りをする上でとても大切な要素になってくる。理想のプリントを作る為には、用紙の種類、特徴を知ることも重要であるからだ。

 また、目的にあった用紙選びをすることも、用紙の選定には大切である。例えば、光沢の強い用紙でポートフォリオを作っていても、その作品を同じ用紙を使って展示しようとなると、光沢が強すぎ、写真の表面に鑑賞者や会場の風景が反射してしまい、展示している作品を鑑賞しづらいという問題がでてきてしまうこともある。( 2008年に木村伊兵衛写真賞を頂いた「I am」という作品の展示をおこなった際は、鑑賞者が作品を見ながら自分の姿(存在)を意識するよう、あえて写真の表面にアクリル加工を施し、作品に鑑賞者の姿が映しだされるよう展示した)。

 このように、例え作品にあった用紙選びをしていても、その目的が、ポートフォリオ作りか、展示する作品の制作かでは、大きな違いがでてきてしまう。用紙の選定で大切なことは、作品にあった用紙選びをすることと、その目的にあった用紙選びをすることの、ふたつのバランスを上手くとることだと言えるだろう。

【ピクトリコを使い続ける理由】

 ピクトリコのインクジェット用紙を、僕はもうずいぶん長い間愛用している。その魅力を一言で説明することは難しいが、色の再現性は勿論、紙の質感、風合い、ものとしての存在感がなによりも好きだ。半光沢紙に関しては、現在の「セミグロスペーパー」の前身にあたる「ベルベッティ」の頃から愛用し、写真を始めた頃の未発表作品を含め、手作りの写真集をこの用紙を使って何冊も作ってきた。ピクトリコの半光沢紙は、個人的にもとても思い入れのある用紙である。

 また、新しい用紙の開発にも積極的に取り組み、印画紙ベースの両面半光沢紙「ピクトリコプロ・両面セミグロスペーパー」を開発・販売してくれたことは、僕にとってとても嬉しいことであった。裏写りを最小限に抑えた薄手の両面光沢紙は、製本などの際に大変便利であり、発想次第では、これまでには出来なかった表現が個人レベルでも可能になった。

 インクジェット用紙やインクジェットプリンターは、銀塩写真に比べ、まだまだ歴史が浅い。これから先、更に新しい用紙や出力機械が開発され、発展を遂げていくことであろう。その進化と登場を楽しみに、僕はこれからも作品制作に取り組んでゆきたいと思う。

岡田敦_第5部

(「ピクトリコプロ・フォトアルバムキット」を使用して作ったオリジナル写真集。)

岡田敦_第5部

(写真集のカバーも手製。カバーの背には、作品のタイトルなどが印刷されている。)

岡田敦_第5部

(カバー裏には、反転された作品のタイトルなどが印刷されている。)

岡田敦_第5部

(カバーを外した状態のアルバムキット。カバーには、耐久性も考慮し、紙厚のある「GEKKOグリーン・ラベル」を使用している。)

岡田敦_第5部

(写真集の見開きの一例。扉から、奥付のプロフィールまで、細部にわたって丁寧に作られている。)

過去の連載

■第1部 撮影について

■第2部 画像処理について - 1

■第2部 画像処理について - 2

■第3部 プリント作業について - 1

■第3部 プリント作業について - 2

■第4部 写真展用の制作活動について

●岡田敦~INFORMATION~

INFOR【1】 木村伊兵衛写真賞35周年記念展
岡田敦 川崎市民DM

 写真界の“芥川賞”といわれる「木村伊兵衛写真賞」は日本写真界の発展に寄与した第一人者、故・木村伊兵衛氏の功績を記念して朝日新聞社が1975年に創設した写真賞です。 写真界の貴重な財産であるこの受賞作品は朝日新聞社より川崎市市民ミュージアムに全作品が寄託されています。
 今回の企画展示では、近年の受賞作である第30回から第35回の作品と、昭和を代表する写真家であり、スナップの名手である木村伊兵衛の作品、そして第1回(1975年度)から第29回(2003年度)までの受賞作品のダイジェストをご覧いただけます。
・展示作家
第30回(2004年度)中野正貴
第31回(2005年度)鷹野隆大
第32回(2006年度)本城直季 
第32回(2006年度)梅佳代  
第33回(2007年度)岡田敦
第33回(2007年度)志賀理江子
第34回(2008年度)浅田政志
第35回(2009年度)高木こずえ
木村伊兵衛作品

<期間>
2010年11月13日〜2011年01月10日
<場所>
川崎市民ミュージアム
〒211-0052川崎市中原区等々力1-2
Tel:044-754-4500 Fax::044-754-4533

INFOR【2】映画「ノルウェイの森」公式ガイドブック
岡田_ノルウェイの森

 
 木村伊兵衛写真賞受賞の岡田敦が主演の松山ケンイチをスペシャル撮り下ろし!
世界に愛された現代文学の最高峰、村上春樹の『ノルウェイの森』が20年の時を経て、遂に映画化!本書はその官能的で詩情豊かな世界観をあますところなく解説した、唯一の公式ガイドブックです。
 松山ケンイチ、菊地凛子、水原希子、玉山鉄二、高良健吾ら豪華キャストの撮り下ろしインタビューのほか、貴重なメイキング写真やロケ地マップ、さらに原作と映画の対比や原作の翻訳版コレクションなど、深く美しい『ノルウェイの森』はこの本でしか味わえない!

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